Eighteen
I wrote a story about a day in the life of an eighteen-year-old highschool girl and the older brother she loves so much. He is two years her senior, and leaving Japan the very next day. Although the story is complete fiction, many of the elements are very much inspired by my upbringing, as you’ll see, and I’m overwhelmingly excited to get a glimpse of how my family reacts to it. But, most importantly, I wrote this story for D because he’s the one who, since the very beginning of our relationship, has encouraged me to write my own stories. Thank you, D for being my inspiration and for your endearing support. I love you to Venus!
So, here’s the beginning bit of the story. Stay tuned for more…
18
兄が明日日本を発つ。この十八年間、修学旅行か合宿かもしくは友達の家に泊まりに行くかで不在だった時以外必ずそこにいた兄が、明日以降、私の前からいなくなってしまう。
兄は私よりも二歳上で、自由奔放、縦横無尽の何一つ型にはまったところがない。それを何よりも象徴しているのは、文字通り人並外れた、電波塔のように聳え立つその体躯である。日本人離れしたすらりと長い手足でモデルにでもなれそうなスタイルなので、実際に何度か知り合いがそんな話を持ちかけてきたこともあった。兄の身長が一体何センチなのか定かではないが、確か前に聞いたときは百九十七センチと言っていた気がする。住み慣れた家の中でも歩くと可哀想に頭を柱にしょっちゅうぶつけていて、周りは決して悪意からではなく純粋な畏敬の念から自然と、キングダム・タワーと呼び始めた。キングダム・タワーという渾名を気にしてか(兄のことだから多分それすらもおもしろがっているような気がするが)それとも人に会うたび何センチ?と毎回決まった質問をされ本当の身長を答えたときの相手の引きようにうんざりしてか、最近ではサバを読んで百八十九センチということにしている。
兄は高校生時代バスケ部で、まあまあ名の知れた選手だった。NBAのマイケル・ジョーダンとスコッティ・ピッペンに憧れ、部屋にはいまだにこの二人のポスターが貼ってある。あの頃の夕食後は、わたしが居間でくつろいで雑誌かなんかをパラパラめくりながらジンジャーティーを飲んでいるすぐ横で、見るのも重そうなバーベルを一心不乱に持ち上げていた。大学はてっきりバスケットボール推薦を利用して進学するものだと、父も母も私も思っていた。県内では名の知れた大学からオファーがあったからだ。しかし兄は、相手が気の毒になるくらい、迷いなくあっさりとそのオファーを蹴った。いいや違う俺はちゃうねん、やりたいことちゃんとあんねん、おとんもおかんもゆらも何も心配せんでええ、俺に任せとけ、ということだった。数日後、夕食の席でついに、兄のしたいということを明かされた時、私たち家族全員驚きすぎて開いた口が塞がらなかった。皆「えっ?今なんて言ったん?なんか変な聞こえ方したと思うから悪いけどもう一回言って」と言いたげに曖昧な表情を浮かべていたが、兄があまりにも明確に滑舌よく告げたので、今聞こえたことは決して聞き間違いなんかじゃないと了解した。それでも各々が「え!?ちょっと待って」と言いたいのは父の様子からも、母の面持ちからも読み取れた。気まずい沈黙が少しずつ場を満たし始めていた。しかし誰も兄の気持ちを傷つけたくなかったのと、兄が何かを決断するにはそれはそれは申し分ない考慮が施された結果であるというのを、皆熟知していたので、やる気と希望に満ち溢れた人に特有な光線を放たんばかりの兄を前に、父は黙って、冷えた日本酒の入った青い切り子のお猪口くいっと口に傾け、母はお箸で手元のそら豆のコロッケを心配そうにつつき、隣で私は私の左足の甲に顎を載せ気持ち良そうに休んでいる飼い犬のマッキントッシュの耳をしきりに撫でていた。兄はなんとお坊さんになりたかったのだ。日差しが少しずつ強まり、朝の通学時に近所の家の玄関先がダリアや立葵や向日葵で綺麗に彩られているのに気づく頃だった。そして夏本番に入り、熊蝉がミンミンミンミンやたらめったら煩いうだるような酷暑に、高校総体も終了した。兄のバスケ部の後輩全員が泣きに泣いて自分たちの極大な喪失を嘆くなか、兄は、華々しく引退した。同時に、猛勉強を始めた。
続く——
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Reiko Kane
Author and
Co-Founder, Maplopo